Column

スルガ銀行問題について考える

2018年8月末日

今回は少し不動産のお話しをいたします。

最近の話題はといえばカボチャの馬車事件で、あってはならないことが起きてしまいました。ご存知の方も多いと思いますが、この事案は都内の不動産会社ニューデイズが個人に多額の借金をさせ、シェアハウスと呼ばれる一棟ものアパートを大量に販売したものです、単に借金をさせて物件を売っただけなら事件性はないのですが、不動産会社とスルガ銀行がグルになって融資依頼者の年収や預金残高を改ざんした疑いがあり、その点が問題になりました。

現在はスルガ銀行が立ち上げた第三者委員会による調査が行われているようですが、一連のプロセスの中で何らかの違法行為が見つかるかもしれませんし、仮にそうでなくても被害者による集団訴訟に発展する可能性もあるでしょう。

この問題は確かに規模や悪質さの点で際立ってはいますが、私たちが不動産投資を行う上で、いくつかの教訓や注意点を得ることができると思います、その意味で決して他人事ではなく参考にすべき点が多いのではないでしょうか。そのような観点で、今回この問題を取り上げさせていただきました。

ではまずこの案件の問題点をひとつずつ考えてみたいと思います。

サブリースが抱える問題について

スマートデイズ(以下「ス社」)のうたい文句の一つは30年間のサブリース契約でした。契約では賃料の見直しを当初5年間は行ないないとされており、多くのオーナーはその点に安心感をもって物件の購入を決めていたようです。

ところがス社は今年1月に開いた説明会で、サブリース賃料の一方的な停止を発表しました、契約上はこのサブリース契約は解除できることになってはいましたが、ス社の物件の平均的な入居率は40%程度に過ぎません、サブリース契約を解消し、オーナーが直接入居者から賃料を得たとしても、多くの場合スルガ銀行への返済はできません。

今にして思えば購入希望者のサブリース契約に対する認識は、甘すぎたといわざるをえません、ス社の物件を見ますと概して立地が悪く、さらに部屋の間取りや内装などみても粗悪かつ狭小で、どのような観点から見ても満室にするのは至難の業です。ス社が破綻した場合のことを、なぜオーナーは想定しなかったのか不思議でなりません。ちなみに同社の創業は2012年です。

それにしてもなぜ契約前にス社物件の入居率を確認しなかったのでしょうか?サブリース契約を結んでいたとしても、入居率40%程度に過ぎない物件のオーナーになることに変わりありません、たとえサブリース契約が機能したとしても、ス社がサブリースにかかる逆ザヤを負担できるか否か、少し考えてみればわかりそうなものです。

フルローンの怖さ

ス社の販売時のもう一つのうたい文句は「頭金なしフルローン」だったようです。本件融資に関してスルガ銀行が関与していたというより、むしろ完全にグルだったと僕は思います、なにしろ融資申込者の預金残高や年収など、広範囲にわたって改ざんしていたといいますから、組織的な関与すら疑われます。はたして数名の支店担当者レベルで、ここまで多数の案件を動かせるものでしょうか・・・

ただしオーナー側にも反省すべき点はあると思います、繰り返しになりますがサブリース契約を結ぶにあたり、ス社の破綻の可能性に対する認識がなかった点は大きな問題だと思います、そして破綻した場合の入居率に関する認識の甘さも責められるべきではないでしょうか。不動産は一にも二にも立地であり、サブリース契約が何らかの理由で解消せざるを得なくなった場合、どの程度の賃料がとれるか、あるいはどの程度の空室が発生するかという見積もりは、最低限もっておくべきだったと思います。

本件におけるスルガ銀行の融資条件は、3.5%~4.5%程度の変動金利だと想定できますが、異常な金利の高さに加えて変動金利です。現在のようなゼロ金利下ですら4%程度の高金利であれば、今後金利が正常化するような事態になれば、いったいいかほどの金利を支払わねばならないのでしょうか。ス社が提示した収益率は7%~8%程度だったそうですが、そこから4%の利息を支払えば手残りは半分以下です、さらに今後金利が上がれば逆ザヤなってしまうかもしれません、聞くところによると本件では諸経費(一棟あたり1000万円ほどだそうです)も全額借り入れるケースが一般的だったそうですが、その諸経費部分の利率はなんと7.5%もの高金利が適応されていたそうです。オーナーたちはそのような危ない橋を渡っているという認識はなかったのでしょうか、この点も不思議でなりません。これではサブリースがちゃんと機能したとしても、相当リスキーな投資案件だといえるでしょう。

なぜこのように身の丈を超えた投資にはまるのか

少し金融の知識があれば、上記のようなことは簡単に理解できるはずなのですが、なぜ人はこのような案件にはまり込んでしまうのでしょう、しかも聞くところよれば、700名にも及ぶオーナーさんたちのなかには高年収のサラリーマンや弁護士、公認会計士など有資格者も多いそうです。

そのような教養のある方が、なぜこのように身の丈を超えた不動産投資にはまり込んでしまうのでしょうか。

心理的なものからセールスの巧みさまで、さまざまな要因があると思いますが、一つにはスルガ銀行の看板が大きかったのではないでしょうか。スルガ銀行は地銀ではありますが名の通った大手です、そのようなちゃんとした銀行が多額の融資をつけるのだから、ス社は信頼のおける会社で、このスキームも信頼でき物件も確かだ・・・多くの方はこのような感触を持たれたに違いありません、ですからスルガ銀行の罪は二重の意味で大きいと思います、この件を今後の私たちの不動産投資に生かすとすれば、「決して銀行を信頼してはいけない」ということではないでしょうか。

二つ目の理由は彼らが自分で物件を見る目を養ってこなかったという点だと思います、地方や郊外のアパートにまつわる問題は、決して今に始まったことではありません。木造物件ゆえの耐久性の欠如、老朽化した際の修繕費の持ち出しの問題、駅から遠い物件が多く、賃貸付けが難しい点など昔から指摘され続けてきました。さらに昨今では相続税対策と称し、大手の不動産会社が地方の土地持ちに営業攻勢をかけ、その結果、地方都市や首都近郊でも雨後の筍のように相続税対策アパートが林立しています。他方で今後は(東京都内を除き)世帯数の減少が予想され、郊外アパートの賃貸付けはますます難しくなるでしょう。

自分一人ではこのような点に考えが至らなかったとしても、なにしろ年収の15倍もの買い物です、決めるにあたってはせめて第三者の意見を聞くべきではなかったでしょうか。

身の丈をこえたレバレッジも元凶の一つです、上記のような危険性があるなかで、フルローンを組んで物件を買うなど論外です、レバレッジは常にリスクを伴うという意識を持つべきだったのではないでしょうか。

不動産投資は危ないのか

このようなお話しをしてまいりますと、皆さんの中には不動産投資が危ないものだとお感じになる方がおいでかもしれませんが、決してそんなことはありません。どんな金融商品でも、買い方や選び方によって危ない投資になることもあれば、良い結果をもたらすこともあります、問題は

  1. 想定の甘い過剰なレバレッジ
  2. 銀行への過度な信頼
  3. サブリース契約に対する理解不足
  4. 地方や郊外のアパート投資がもつ問題点
  5. 不動産会社の悪質な営業姿勢

にあるのであって不動産そのものには罪はありません。そればかりか一定の資産をお持ちの方にとって、資産の質的な分散という観点や相続における使い勝手の良さ、さらには長期にわたり賃料が得られるというライフプラン上の利点もあります。

これから不動産投資を検討される方にとって、このカボチャの馬車事件はよい研究材料になると思います。

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