自己資金と借入金のバランスについてAsset / Liability balance
融資の活用方法
「ワンルーム・マンションに投資しようと思うのですが、どれくらいなら借り入れしてもいいでしょうか?」
このような質問の意図や背景は人によってさまざまですが、極端なケースでは自己資金ほぼゼロで、不動産を入手したいとお考えの方もいらっしゃいます。
近年ではノンバンクなどが「45年フルローン」を提示するケースもあり、このような超長期ローンを利用すれば、頭金ゼロでも毎月1万円ほどの手残りがあります。
45年もローンを払い続けなくてはなりませんので、借り手の年齢制限がありますが、例えばお若い会社員などにとっては、どうやら魅力的な提案に映るようです。
45年にもわたって毎月1万円のお小遣いがもらえるうえに、日本の財政破綻対策にもなると考えているのでしょう。
財政破綻を想定される方は、
財政の悪化⇒財政破綻⇒ハイパーインフレ⇒借金の実質価値ゼロへ
というように、我が国財政破綻によって、ご自分の借入金の実質的な価値が小さくなる、あるいはほとんどなくなるとお考えのようです。
確かにハイパーインフレが起きるなら、借金がたくさんあればあるほど有利ですが、そのように極端な状況にならない可能性も十分あるのです。
たとえば不動産投資は修繕費の発生や、家賃の値下げ圧力、空室の発生など、老朽化に伴って起きる収益の低下を計算にいれておかなければなりません。その問題を脇においても、「金利の上昇」という大きな問題があります。
例えばこの「45年フルローン」は変動金利ですが、金利が上がった(というか正常化した)場合の収支勘定、つまりキャッシュフローはどうなるのでしょう。
2019年現在、ノンバンクが提示する45年ローンの金利は1.9%ほどですが、もし金利が1%上がり2.9%になれば返済額の合計どの程度に増えるでしょうか、以下の条件で試算してみましょう。
- 物件価格+諸経費を2300万円
- 頭金100万円、残り2200万円を「45年変動金利」で借入
- 現在の金利1.9%がむこう45年間続く
- 月々の家賃の手取り額75,000円(実質収益率4%)
この場合、毎月の返済額は60,640円で、返済金の総合計は約3270万円と計算できました。
これに対して手取り家賃は上記のように75,000円ですので、毎月15,000円ほど手残りがある計算です。
では借りた翌月いきなり金利が1%上がり、2.9%になってしまえばどうでしょう。
この場合の毎月返済額は72,991円となり、総返済額は約3940万円になってしまいます。
このように金利が1%上がるだけで、家賃の手残りはほぼゼロ(注1)になり、総支払額が670万円(注2)ほども増える勘定です。
注1)75,000円-72,991円=2,009円
注2)3940万円-3270万円=670万円
ローンの支払期間が長いので、わずかな金利の上昇によって、このように総支払額と月々の支払額が大きく増えるのです。
ではこの支払金利1%の上昇は現実的なのでしょうか。
私は十分あり得ると思います。
「45年ローン」の金利は、日本の超長期国債の金利水準に連動すると考えられますが、2019年現在、40年国債の利回りは0.57%に過ぎません。
では過去この40年債金利はどのような動きをしてきたのでしょうか。
近年にみられる日本の低金利化傾向によって、この超長期金利も下がっているのですが、例えば10年前の40年国債の金利は2.3%ほどもありました、現在のそれが0.57%ですので、今と比べると1.7%ほども高い水準だったのです。
さきほどの試算は、金利1%の上昇で計算しましたが、10年前は今より1.7%も高かったということです。
仮に「45年ローン」の支払金利が現在の1.9%から1.7%上がり、3.6%になればどうなるでしょう。
この場合、毎月返済額は約82,000円に上がりますので、それだけで手取り家賃75,000円を超えてしまい、逆に毎月7,000円ほどの持ち出しです。
複数の物件を持てば当然この金額も増えます。
確かに日本の財政が破綻する可能性は、ある程度みておく必要があると思いますが、もし財政破綻が起きず金利が正常化すれば、このように生活を圧迫することになるのです。
これでは日本の財政破綻に賭けるギャンブルと大差ありません。
万一への備えはよいことだと思うのですが、それがかえって「平時の危機」を招くなら、それこそ本末転倒です。
上記の「頭金ゼロ45年ローン」は、わが国の財政破綻対策にはなりますが、逆に日本の経済が正常化に向かう場合、家計の破綻を招きかねません。
なにぶん45年にも及ぶ超長期の投資です、人によってわが国財政への懸念度合は違って当然です。
それでも私はこのように財政破綻に賭けるきわどい投資には危うさを感じざるを得ません、すべて自己資金で買うべきだとは申しませんが、融資のレベルは万一金利の上昇が起きた場合にそなえ、手持ちの流動性資産の範囲の中に抑えるべきではないかと思います。売り手は常に一戸でも多くの物件を売りたいものですが、私たち買う側はそのようなセールストークに乗せられてはなりません、なぜなら彼らは売った時点で完結しており、その後オーナーが抱えるリスクとは無関係だからです。
収支のバランスやライフプラン、手持ちの流動性資産(現預金や債券など)のバランスをみながら、必要最低限の融資の活用をご検討ください。
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